ィれ達の眼をうまくくらまかしたというので、たいした評判を取り、おかげであの画は途方もない値段である富豪《かねもち》の手に買い取られたそうだ。何が幸福《しあわせ》になるんだか、人間の世の中はわからないことだらけだよ。」
「そうだとも。そうだとも。」
 残りの雀は声を揃えて調子を合せました。
「ほんとうに忌々《いまいま》しいたらありゃしない。ひとの失敗《しくじり》を自分の幸福《しあわせ》にするなんて。今度出逢ったが最後、この剣でもって思いきりみなの復讐《しかえし》をしてやらなくっちゃ。」
 蜜蜂は黄ろい毛だらけの尻に隠していた短剣をそっと引っこ抜いて、得意そうに皆に見せびらかしました。剣は持主が手入れを怠けたせいか、古い留針《とめばり》のように尖端《さき》が少し錆びかかっていました。
「お前。まだ分ってないんだな。画を描くことの出来る手は、また生物《いきもの》を殺すことも出来る手だってことがさ。」第一の雀は蜜蜂の態度に軽い反感をもったらしく、わざと自分の不作法を見せつけるように、枝の上から白い糞《ふん》を飛ばしました。「お前、その剣でもって人間の首筋を刺すことが出来るかも知れんが、その代り、とても生きては帰れないんだぞ。」
「じゃ、どうすればいいんだ。復讐《しかえし》もしないで黙って待っていろというのか。」
 蜜蜂は腹立たしくて溜らないように叫びました。頭の触角と羽とが小刻みにぶるぶると顫えました。
「復讐《しかえし》は簡単だよ。これから人間の画かきどもが何を描こうとも、おれ達はわざと気づかないふりをして外《そ》っ方《ぽう》を向いているんだ。そうすれば、おれ達がいくらそそっかしいにしたって、以前のように騙かされようがないじゃないか。騙かされさえしなかったら、どんな高慢な画かきにしても、手前味噌の盛りようがないんだからな。」
「大きにそうかも知れんて。じゃ、そうと決めようじゃないか。」
「よかろう。忘れても人間に洩らすんじゃないよ。」
「これでやっと復讐《しかえし》が出来ようというもんだ。」
 皆は吾を忘れて悦び合っていました。すると、だしぬけに程近い草のなかから、
「へっ、復讐かい。それが。おめでたく出来てるな。」
と冷笑する声が聞えました。
 皆はびっくりして声のした方へ眼をやりました。日あたりのいい草の上で、今まで昼寝をしていたらしい一匹の黒猫が、起き上りざま背を円
前へ 次へ
全121ページ中114ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
薄田 泣菫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング