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「おれは娘っ子のようにおっ魂消たな。――恥しいことじゃ。」
政宗はその次の瞬間そう思って悔しさに身悶えした。突嗟の場合器の値段を思い浮べて、胸をどきつかせたのが何としても堪えられなく厭だった。
いつだったか、政宗は徳川家康に茶の饗応《ふるまい》を受けたことがあった。そのおり家康は湯を汲み出そうとして何心なく釜の蓋へ手をやった。蓋は火のように熱していた。あまりの熱さに家康は小児のように、
「おう、熱う……」
と叫んで、釜の蓋を取り離したかと思うと、慌ててその手を自分の耳朶へやった。その様子がいかにも可笑しかったので、政宗は覚えず
「うふ……」
と吹き出してしまった。
家康はそれを聞くと、また気をとり直して、前よりは熱していたらしい釜の蓋を平気で撮み上げた。そして何事もなかったように静かに茶を立てにかかった。
政宗はいつに変らぬ亭主のねばり強さに感心させられたが、それでも腹のなかではもしか俺だったら、初めに手にとり上げたが最後、どんなに熱くたって釜の蓋を取り落すような事はしまいと思った。
政宗は今それを思い出した。あんなに心上りしたことを考えていたものが、今の有様はどうだったかと思うと、顔から火が出るような気持がした。誰だったか知らないが自分の耳近くにやって来て、
「うふ……」
と冷かすように吹き出したらしい気配《けはい》を政宗は感じた。
逆上《のぼ》せ易いこの茶人はかっとなってしまった。彼は鷲掴みに茶碗を片手にひっ掴んだかと思うと、いきなりそれを庭石目がけて叩きつけた。茶碗はけたたましい音を立てて、粉微塵に砕け散った。
「は、は、は、は……」
政宗は声高く笑った。彼はその瞬間、金二千両の天目茶碗を失った代りに、自分の心の落着きをしかと取り返すことが出来たように思って、昂然と胸を反らした。
3
泉州小泉の城主片桐貞昌は、茶道石州流の開祖として、船越吉勝、多賀左近と合せて、その頃の三宗匠と称えられた名誉の茶人であった。
貞昌があるとき、海道筋に旅をして宿屋に泊ったことがあった。ちょうど冬のことだったので、宿屋の主人《あるじ》は夜長の心遣いから、溺器《しびん》を室の片隅に持運んで来た。それは一風変った形をした陶器だったが、物の鑑定《めきき》にたけた貞昌の眼は、それを見遁さなかった。彼は主人に言いつけて、器を綺麗に洗い濯がせた後、あらた
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