メり噛ってみたり、蛙の後脚をそっと舌でさわってみたりした。
 そんなことが度重るうちに、自分の身にうしろ暗いところのある雲水は、後々《あとあと》を気遣って、いつの間にか寺から姿を隠してしまった。甚斎は手を拍《う》って喜んだ。
 そのことが南天棒の耳に入ると、甚斎は方丈に呼び出された。他人のなかでは荒馬のように粗暴な甚斎も、和尚の前へ出ては猫のようにおとなしかった。和尚はいった。
「東馬、お前は雲水たちをいびり出したそうじゃな。乱暴にも程があるじゃないか。」
「はい。別に追出したというわけではありませんが……」甚斎は雄鶏のように昂然と胸を反《そ》らせた。「彼等から出て往きました。雲水にもあるまじき所業の多かった輩《てあい》でしたから、あとに残ったものは、実際救われましたようなわけで……」
 老和尚は相手の得意そうな顔をじろりと見返した。
「後に残ったものは救われたかも知れんが、出て往ったものは救われたじゃろうかな。」
「……」甚斎は壁に衝き当ったようにどぎまぎした。
「救われないかも知れませんが、それにしたって、あんな不行跡者は仕方がありません。」
「それはいかん。」和尚はこう言って、側の本箱から一冊の写本を取出した。そして紙に折目のついているところを繰り開けて、甚斎の鼻先に突きつけた。「ここのところを読んでみなさい。声をあげて。」
 甚斎は和尚の手から本を受取った。そして納所坊主《なっしょぼうず》がお経を読む折のように、声を張り上げてそれを読み出した。
「下谷高岸寺に、ある頃弟子僧二人あり。一人は律義廉直にして、専ら寺徳をなす。一人は戒行を保たで、大酒を好み、あまつさへ争論止まず、私多し。ある時什物を取出し売るを――ひどい奴があったものですな。まるで此寺《こちら》の雲水そっくりのようで……。」
「むだ口を利《き》かんと、後を読みなさい。」
 和尚は媼さんのような口もとをしてたしなめた。甚斎はまた読み続けた。
「あるとき、什物を取出し売るを、一人の僧見て諫《いさめ》を加へけるに、聞入れざれば、この由住持に告げ、追退《おいの》け給はずば、ために悪しかりなんと言ふ。住持先づ諭し見るべしとて、厳しく戒めたるままにて捨て置きぬ。又あるとき仏具を取出し売りたるに、いよいよ禍ひに及び、わが身にもかからん間、彼のものに給はずんば、我に暇給はるべしと頻りに言ひける程に、住持涙を浮べ、
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