り庭石に叩きつけた。青磁の皿は小判のやうな音がして、粉々《こな/\》に砕けたと亭主は思つた。鴻池の主人は飲みさしの盃を取り上げながら言つた。
「あの皿は家《うち》の物とそつくり同じやつた。同じ青磁の皿が世間に二つあるやうでは、鴻池家《うち》の顔に関はるよつてな。」
 そして眉毛一つ動かさうとしなかつた。
 一寸|往時《むかし》の事を言つたまでだ。小杉家から出た宝物とは何の関係もない。



底本:「日本の名随筆 別巻9 骨董」作品社
   1991(平成3)年11月25日第1刷発行
   1999(平成11)年8月25日第6刷発行
底本の親本:「完本 茶話 上巻」冨山房
   1983(昭和58)年11月発行
入力:門田裕志
校正:高柳典子
2005年5月4日作成
青空文庫作成ファイル:
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