りました。生れつきの博奕好きで、小鳥が二羽立木にとまっているのを見ると、どっちが早く飛ぶだろうかと、すぐ賭を工夫するといった風な、好きな博奕のためにはどんな機会をでも発見する事の出来る男でした。.
 この男が蛙を飼っていました。丹精して仕込まれただけあって、蛙は飛ぶ事がひどく得意で、この男の指が一寸お尻をこづくと、ゴム鞠のように跳上って、機みがよかったら途中で二三度とんぼ返りまでして見せました。とりわけ上手なのは幅飛で、この道にかけたらどんな蛙にも負けないだけの技倆を持っていました。スマイリイはこの蛙のお蔭で少からぬ金儲けをしたので、いつもカナリヤ籠に入れて、持ち歩いていました。
 ある時、この都に見当らない男が、通りすがりにこの籠を見て、何を飼っているのだと訊くと、スマイリイは、
「鸚鵡とも、カナリヤとも思われようが、実は蛙が一匹さ。」と答えました。
 蛙を飼って何にするのだと不思議がると、スマイリイは「幅飛の名人さ、これに追付くような奴はこの辺には一匹だって見当らない。嘘だと思うなら賭をしよう。」と言います。旅の男が、「蛙さえあれば賭けてみたいのだが、あいにく蛙の持ち合せがないので。」と言うと、スマイリイは蛙なら自分が捕って来るとあって、カナリヤ籠をその男に預けて、沼地へ下りて行きました。
 暫くすると、スマイリイは蛙を一匹つかまえて帰って来ました。二人は足場を揃えて二匹の蛙を置きました。そして合図の掛声と同時に、自分達の蛙の尻に一寸さわりました。新参の蛙は勢いよく飛びましたが、スマイリイが自慢の蛙は、フランス人のように鯱子張って、一足も踏出そうとしません。まるで鍛冶屋の鉄砧のようだったと言います。お蔭で男は賭けた金で懐を膨らませて帰りました。
 スマイリイは悄気きって、その後で自分の蛙の首筋をもって持ち上げました。蛙はその大きな口から小鳥撃ちの散弾を掌面に一杯ほど吐き出しました。この散弾こそ、スマイリイが沼地へ下りて行った留守の間に、旅の男が蛙をつかまえて、茶匙に二杯ほど無理強いに飲み込ませたものでした。
 背広服のポケットのように、大切な下っ腹を物入れに使われたのは、蛙にとって全くみじめでした。それにしてもマアク・トエンという人は、本当に碌でなしの、飛んでもない悪戯を思い付く男ですね。

 蛙はスマイリイが自慢の奴のように、丹精して仕込みさえすれば、いろんな
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