れたやうな、淡水に棲む老魚の持つ倦怠と、憂鬱と、暗い不気味さとは、どの作品でも味はふことができなかつたのを、幾らか物足らず思つたものだ。たつた一度、呉霊壁のあまりすぐれた出来とも思はれない作品に、あり来りのそれとはちがつて、鯉を水の化生か何かのやうに醜く描いてゐるのを見て、おもしろいと思つたことがあつた。作者はどんな人かよく知らないが、多くの画家が生命の溌刺さをのみ見てゐるこの魚族を取り扱ふのに、彼みづからの見方に従つて、グロテスクの味をたつぷりと出したのが気に入つて、いまだに忘れられないでゐる。



底本:「日本の名随筆32 魚」作品社
   1985(昭和60)年6月25日第1刷発行
   1987(昭和62)年8月10日第2刷
底本の親本:「艸木蟲魚」創元社
   1940(昭和15)年6月初版発行
入力:とみ〜ばあ
校正:今井忠夫
2000年12月25日公開
2006年1月1日修正
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