金銀をつくして、贅沢を凝らしたなかに、ひとり中村内蔵助の妻は、尾形光琳の趣好で、打掛着付とも黒羽二重の無地、その下には白無垢を幾つも重ねてゐましたが、この方が見飽きがしないといふので、大層な評判をとつたさうです。紫蘇の紫にそれ程の趣好と用意とはなささうで、ことによつたら造化の絵具皿に紫の色しか残つてゐなかつた時の創造かも知れませんが、それにしても、色も香も紫づくめに塗りくつた放胆な意匠は季が季だけに充分の効果が見えます。



底本:「日本の名随筆33・水」作品社
   1985(昭和60)年7月25日第1刷発行
底本の親本:「太陽は草の香がする」アルス
   1926(昭和元)年9月
入力:砂場清隆
校正:菅野朋子
2000年7月29日公開
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