すべ》てのうちにて、尤《もっと》も明かなるものという。苦しきに堪えかねて、われとわが頭《かしら》を抑えたるギニヴィアを打ち守る人の心は、飛ぶ鳥の影の疾《と》きが如くに女の胸にひらめき渡る。苦しみは払い落す蜘蛛《くも》の巣と消えて剰《あま》すは嬉《うれ》しき人の情《なさけ》ばかりである。「かくてあらば」と女は危うき間《ひま》に際どく擦《す》り込む石火の楽みを、長《とこし》えに続《つ》づけかしと念じて両頬に笑《えみ》を滴《したた》らす。
「かくてあらん」と男は始めより思い極めた態である。
「されど」と少時《しばし》して女はまた口を開く。「かくてあらんため――北の方なる試合に行き給え。けさ立てる人々の蹄の痕《あと》を追い懸けて病|癒《い》えぬと申し給え。この頃の蔭口《かげぐち》、二人をつつむ疑《うたがい》の雲を晴し給え」
「さほどに人が怖《こわ》くて恋がなろか」と男は乱るる髪を広き額に払って、わざとながらからからと笑う。高き室《しつ》の静かなる中に、常ならず快からぬ響が伝わる。笑えるははたとやめて「この帳《とばり》の風なきに動くそうな」と室の入口まで歩を移してことさらに厚き幕を揺り動かして見
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