惜しみの減らず口と云う奴で、公平な処が向うの方がどうしても立派だ。何となく自分が肩身の狭い心持ちがする。向うから人間並外れた低い奴が来た。占《しめ》たと思ってすれ違って見ると自分より二寸ばかり高い。こんどは向うから妙な顔色をした一寸法師が来たなと思うと、これすなわち乃公《だいこう》自身の影が姿見に写ったのである。やむをえず苦笑いをすると向うでも苦笑いをする。これは理の当然だ。それから公園へでも行くと角兵衛獅子に網を被《かぶ》せたような女がぞろぞろ歩行《ある》いている。その中には男もいる。職人もいる。感心に大概は日本の奏任官以上の服装をしている。この国では衣服では人の高下が分らない。牛肉配達などが日曜になるとシルクハットでフロックコートなどを着て澄している。しかし一般に人気が善《よ》い。我輩などを捕えて悪口をついたり罵《ののし》ったりするものは一人もおらん。ふり向いても見ない。当地では万事|鷹揚《おうよう》に平気にしているのが紳士の資格の一つとなっている。むやみに巾着切《きんちゃくき》りのようにこせこせしたり物珍らしそうにじろじろ人の顔なんどを見るのは下品となっている。ことに婦人なぞは後
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