《なぐ》り付けるのは、なぐられた人がわるいから、気狂がなぐるんだそうだ。難有《ありがた》い仕合せだ。活気にみちて困るなら運動場へ出て相撲《すもう》でも取るがいい、半ば無意識に床の中へバッタを入れられてたまるものか。この様子じゃ寝頸《ねくび》をかかれても、半ば無意識だって放免するつもりだろう。
 おれはこう考えて何か云おうかなと考えてみたが、云うなら人を驚ろすかように滔々《とうとう》と述べたてなくっちゃつまらない、おれの癖として、腹が立ったときに口をきくと、二言か三言で必ず行き塞《つま》ってしまう。狸でも赤シャツでも人物から云うと、おれよりも下等だが、弁舌はなかなか達者だから、まずい事を喋舌《しゃべ》って揚足《あげあし》を取られちゃ面白くない。ちょっと腹案を作ってみようと、胸のなかで文章を作ってる。すると前に居た野だが突然起立したには驚ろいた。野だの癖に意見を述べるなんて生意気だ。野だは例のへらへら調で「実に今回のバッタ事件及び咄喊《とっかん》事件は吾々《われわれ》心ある職員をして、ひそかに吾《わが》校将来の前途《ぜんと》に危惧《きぐ》の念を抱《いだ》かしむるに足る珍事《ちんじ》でありま
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