と感心したくらいだ。
このくらい関係の深い人の事だから、会議室へはいるや否や、うらなり君の居ないのは、すぐ気がついた。実を云うと、この男の次へでも坐《す》わろうかと、ひそかに目標《めじるし》にして来たくらいだ。校長はもうやがて見えるでしょうと、自分の前にある紫《むらさき》の袱紗包《ふくさづつみ》をほどいて、蒟蒻版《こんにゃくばん》のような者を読んでいる。赤シャツは琥珀《こはく》のパイプを絹ハンケチで磨《みが》き始めた。この男はこれが道楽である。赤シャツ相当のところだろう。ほかの連中は隣り同志で何だか私語《ささや》き合っている。手持無沙汰《てもちぶさた》なのは鉛筆《えんぴつ》の尻《しり》に着いている、護謨《ゴム》の頭でテーブルの上へしきりに何か書いている。野だは時々山嵐に話しかけるが、山嵐は一向応じない。ただうん[#「うん」に傍点]とかああ[#「ああ」に傍点]と云うばかりで、時々|怖《こわ》い眼をして、おれの方を見る。おれも負けずに睨《にら》め返す。
ところへ待ちかねた、うらなり君が気の毒そうにはいって来て少々用事がありまして、遅刻|致《いた》しましたと慇懃《いんぎん》に狸《たぬき》
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