ない。そうして人が攻撃《こうげき》すると、僕は知らないとか、露西亜《ロシア》文学だとか、俳句が新体詩の兄弟分だとか云って、人を烟《けむ》に捲《ま》くつもりなんだ。あんな弱虫は男じゃないよ。全く御殿女中《ごてんじょちゅう》の生れ変りか何かだぜ。ことによると、あいつのおやじは湯島のかげま[#「かげま」に傍点]かもしれない」
「湯島のかげま[#「かげま」に傍点]た何だ」
「何でも男らしくないもんだろう。――君そこのところはまだ煮えていないぜ。そんなのを食うと絛虫《さなだむし》が湧《わ》くぜ」
「そうか、大抵大丈夫《たいていだいじょうぶ》だろう。それで赤シャツは人に隠《かく》れて、温泉《ゆ》の町の角屋《かどや》へ行って、芸者と会見するそうだ」
「角屋って、あの宿屋か」
「宿屋兼料理屋さ。だからあいつを一番へこますためには、あいつが芸者をつれて、あすこへはいり込むところを見届けておいて面詰《めんきつ》するんだね」
「見届けるって、夜番《よばん》でもするのかい」
「うん、角屋の前に枡屋《ますや》という宿屋があるだろう。あの表二階をかりて、障子《しょうじ》へ穴をあけて、見ているのさ」
「見ているとき
前へ
次へ
全210ページ中176ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング