らの悪るい所を見届けて現場で撲らなくっちゃ、こっちの落度になるからと、分別のありそうな事を附加《つけた》した。山嵐でもおれよりは考えがあると見える。
じゃ演説をして古賀君を大いにほめてやれ、おれがすると江戸っ子のぺらぺらになって重みがなくていけない。そうして、きまった所へ出ると、急に溜飲《りゅういん》が起って咽喉《のど》の所へ、大きな丸《たま》が上がって来て言葉が出ないから、君に譲《ゆず》るからと云ったら、妙な病気だな、じゃ君は人中じゃ口は利けないんだね、困るだろう、と聞くから、何そんなに困りゃしないと答えておいた。
そうこうするうち時間が来たから、山嵐と一所に会場へ行く。会場は花晨亭《かしんてい》といって、当地《ここ》で第一等の料理屋だそうだが、おれは一度も足を入れた事がない。もとの家老とかの屋敷《やしき》を買い入れて、そのまま開業したという話だが、なるほど見懸《みかけ》からして厳《いか》めしい構えだ。家老の屋敷が料理屋になるのは、陣羽織《じんばおり》を縫《ぬ》い直して、胴着《どうぎ》にする様なものだ。
二人が着いた頃《ころ》には、人数《にんず》ももう大概揃《たいがいそろ》って
前へ
次へ
全210ページ中153ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング