は好き嫌いで働くものだ。論法で働くものじゃない。
「あなたの云う事はもっともですが、僕は増給がいやになったんですから、まあ断わります。考えたって同じ事です。さようなら」と云いすてて門を出た。頭の上には天の川が一筋かかっている。
九
うらなり君の送別会のあるという日の朝、学校へ出たら、山嵐《やまあらし》が突然《とつぜん》、君先だってはいか銀が来て、君が乱暴して困るから、どうか出るように話してくれと頼《たの》んだから、真面目《まじめ》に受けて、君に出てやれと話したのだが、あとから聞いてみると、あいつは悪《わ》るい奴《やつ》で、よく偽筆《ぎひつ》へ贋落款《にせらっかん》などを押《お》して売りつけるそうだから、全く君の事も出鱈目《でたらめ》に違《ちが》いない。君に懸物《かけもの》や骨董《こっとう》を売りつけて、商売にしようと思ってたところが、君が取り合わないで儲《もう》けがないものだから、あんな作りごとをこしらえて胡魔化《ごまか》したのだ。僕はあの人物を知らなかったので君に大変失敬した勘弁《かんべん》したまえと長々しい謝罪をした。
おれは何とも云わずに、山嵐の机の上にあった、
前へ
次へ
全210ページ中147ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング