た事ですね、あれを忘れずにいて下さればいいのです」
「下宿の世話なんかするものあ剣呑《けんのん》だという事ですか」
「そう露骨《ろこつ》に云うと、意味もない事になるが――まあ善いさ――精神は君にもよく通じている事と思うから。そこで君が今のように出精《しゅっせい》して下されば、学校の方でも、ちゃんと見ているんだから、もう少しして都合《つごう》さえつけば、待遇《たいぐう》の事も多少はどうにかなるだろうと思うんですがね」
「へえ、俸給《ほうきゅう》ですか。俸給なんかどうでもいいんですが、上がれば上がった方がいいですね」
「それで幸い今度転任者が一人出来るから――もっとも校長に相談してみないと無論受け合えない事だが――その俸給から少しは融通《ゆうずう》が出来るかも知れないから、それで都合をつけるように校長に話してみようと思うんですがね」
「どうも難有《ありがと》う。だれが転任するんですか」
「もう発表になるから話しても差し支《つか》えないでしょう。実は古賀君です」
「古賀さんは、だってここの人じゃありませんか」
「ここの地《じ》の人ですが、少し都合があって――半分は当人の希望です」
「どこへ行
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