》に倚《よ》りかかって突伏していた。宗助はまた六畳の戸を引いて首を差し込んだ。そこには小六《ころく》が掛蒲団を一枚頭から引被って寝ていた。
宗助は一人で着物を着換えたが、脱ぎ捨てた洋服も、人手を借りずに自分で畳んで、押入にしまった。それから火鉢へ火を継《つ》いで、湯を沸《わ》かす用意をした。二三分は火鉢に持たれて考えていたが、やがて立ち上がって、まず小六から起しにかかった。次に清を起した。二人とも驚ろいて飛び起きた。小六に御米の今朝から今までの様子を聞くと、実は余り眠いので、十一時半頃飯を食って寝たのだが、それまでは御米もよく熟睡していたのだと云う。
「医者へ行ってね。昨夜《ゆうべ》の薬を戴《いただ》いてから寝出して、今になっても眼が覚めませんが、差支《さしつかえ》ないでしょうかって聞いて来てくれ」
「はあ」
小六は簡単な返事をして出て行った。宗助はまた座敷へ来て御米の顔を熟視した。起してやらなくっては悪いような、また起しては身体《からだ》へ障《さわ》るような、分別《ふんべつ》のつかない惑《まどい》を抱《いだ》いて腕組をした。
間もなく小六が帰って来て、医者はちょうど往診に出かけるところであった、訳を話したら、では今から一二軒寄ってすぐ行こうと答えた、と告げた。宗助は医者が見えるまで、こうして放っておいて構わないのかと小六に問い返したが、小六は医者が以上よりほかに何にも語らなかったと云うだけなので、やむを得ず元のごとく枕辺《まくらべ》にじっと坐っていた。そうして心の中《うち》で、医者も小六も不親切過ぎるように感じた。彼はその上|昨夕《ゆうべ》御米を介抱している時に帰って来た小六の顔を思い出して、なお不愉快になった。小六が酒を呑《の》む事は、御米の注意で始めて知ったのであるが、その後気をつけて弟の様子をよく見ていると、なるほど何だか真面目《まじめ》でないところもあるようなので、いつかみっちり異見でもしなければなるまいくらいに考えてはいたが、面白くもない二人の顔を御米に見せるのが、気の毒なので、今日《きょう》までわざと遠慮していたのである。
「云い出すなら御米の寝ている今である。今ならどんな気不味《きまず》いことを双方で言い募《つの》ったって、御米の神経に障る気遣《きづかい》はない」
ここまで考えついたけれども、知覚のない御米の顔を見ると、またその方が気がかりに
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