―というと語弊《ごへい》があるかも知れませんが――二通りになるでしょう。其処《そこ》です其処です、それをいわないと能《よ》く解らない。
 それでこのヒューマン・レースの代表者という方から考えて、人間という者はどんな特色、どんな性質を持っているか。第一私は人間全体を代表するその人間の特色として、第一に模倣ということを挙げたい。人は人の真似をするものである。私も人の真似をしてこれまで大きくなった。私の所の小さい子供なども非常に人の真似をする。一歳違いの男の兄弟があるが、兄貴が何か呉《く》れろといえば弟も何か呉れろという。兄が要《い》らないといえば弟も要らないという。兄が小便《しょうべん》がしたいといえば弟も小便をしたいという。それは実にひどいものです。総《すべ》て兄のいう通りをする。丁度その後から一歩一歩ついて歩いているようである。恐るべく驚くべく彼は模倣者である。
 近頃読んだ本でありませんがマンテガッツァの『フィジオロジー・エンド・エキスプレション』という本の中にイミテーションということについて例を沢山挙げてありましたが、私は今|一々《いちいち》人間という者は真似をするものであるという
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