行掛《ゆきがか》り上《じょう》から考えても、またそれらの纏綿《てんめん》した情実を傍《かたわら》に置いた、自然不自然の批判から云っても、実は一思案《ひとしあん》しなければならない点であった。それを平生の細心にも似ず、一顧の掛念《けねん》さえなく、ただ無雑作《むぞうさ》に話頭《わとう》に上せた津田は、まさに居常《きょじょう》お延に対する時の用意を取り忘れていたに違《ちがい》なかった。
しかし相手はすでにお延でなかった。津田がその用心を忘れても差支えなかったという証拠は、すぐ清子の挨拶《あいさつ》ぶりで知れた。彼女は微笑して答えた。
「ええありがとう。まあ相変らずです。時々二人してあなたのお噂《うわさ》を致しております」
「ああそうですか。僕も始終《しじゅう》忙がしいもんですから、方々へ失礼ばかりして……」
「良人《うち》も同《おん》なじよ、あなた。近頃じゃ閑暇《ひま》な人は、まるで生きていられないのと同なじ事ね。だから自然御互いに遠々しくなるんですわ。だけどそれは仕方がないわ、自然の成行だから」
「そうですね」
こう答えた津田は、「そうですね」という代りに「そうですか」と訊《き》いて見たいような気がした。「そうですか、ただそれだけで疎遠になったんですか。それがあなたの本音《ほんね》ですか」という詰問はこの時すでに無言の文句となって彼の腹の中に蔵《かく》れていた。
しかも彼はほとんど以前と同じように単純な、もしくは単純とより解釈のできない清子を眼前に見出《みいだ》した。彼女の態度には二人の間に関を話題にするだけの余裕がちゃんと具《そなわ》っていた。それを口にして苦《く》にならないほどの淡泊《たんぱく》さが現われていた。ただそれは津田の暗《あん》に予期して掛《かか》ったところのもので、同時に彼のかつて予想し得なかったところのものに違なかった。昔のままの女主人公に再び会う事ができたという満足は、彼女がその昔しのままの鷹揚《おうよう》な態度で、関の話を平気で津田の前にし得るという不満足といっしょに来なければならなかった。
「どうしてそれが不満足なのか」
津田は面と向ってこの質問に対するだけの勇気がなかった。関が現に彼女の夫である以上、彼は敬意をもって彼女のこの態度を認めなければならなかった。けれどもそれは表通りの沙汰《さた》であった。偶然往来を通る他人のする批評に過ぎ
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