いので、僕は帰る宅さえなくなりました。
 叔父の仕事はまるで山です。金なんか少しもないのです。そうして彼ら夫婦は極《きわ》めて冷やかな極めて吝嗇《りんしょく》な人達です。だから来た当座僕は空腹に堪えかねて、三日に一遍ぐらい姉の家《うち》へ帰って飯を食わして貰いました。兵糧《ひょうろう》が尽きて焼芋《やきいも》や馬鈴薯《じゃがいも》で間に合せていたこともあります。もっともこれは僕だけです。叔母は極めて感じの悪い女です。万事が打算的で、体裁《ていさい》ばかりで、いやにこせこせ突ッ付き廻したがるんで、僕はちくちく刺されどうしに刺されているんです。叔父は金のないくせに酒だけは飲みます。そうして田舎《いなか》へ行けば殿様だなどと云って威張るんです。しかし裏側へ入ってみると驚ろく事ばかりです。訴訟事件さえたくさん起っているくらいです。出発のたびに汽車賃がなくって、質屋へ駈けつけたり、姉の家へ行って、苦しいところを算段して来てやったりしていますが、叔父の方じゃ、僕の食費と差引にする気か何かで澄ましているのです。
 叔母は最初から僕が原稿を書いて食扶持《くいぶち》でも入れるものとでも思ってるんでしょう、僕がペンを持っていると、そんなにして書いたものはいったいどうなるの、なんて当擦《あてこす》りを云います。新聞の職業案内欄に出ている「事務員募集」の広告を突きつけて謎《なぞ》をかけたりします。
 こういう事が繰り返されて見ると、僕は何しにここへ来たんだか、まるで訳が解らなくなるだけです。僕は変に考えさせられるのです。全く形をなさないこの家の奇怪な生活と、変幻|窮《きわま》りなきこの妙な家庭の内情が、朝から晩まで恐ろしい夢でも見ているような気分になって、僕の頭に祟《たた》ってくるんです。それを他《ひと》に話したって、とうてい通じっこないと思うと、世界のうちで自分だけが魔に取り巻かれているとしか考えられないので、なお心細くなるのです、そうして時々は気が狂いそうになるのです。というよりももう気が狂っているのではないかしらと疑がい出すと、たまらなく恐《こわ》くなって来るのです。土の牢の中で苦しんでいる僕には、日光がないばかりか、もう手も足もないような気がします。何となれば、手を挙げても足を動かしても、四方は真黒だからです。いくら訴えても、厚い冷たい壁が僕の声を遮《さえ》ぎって世の中へ聴えさせな
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