えたって、実戦において敗北すりゃそれまでだろう。だから僕が先刻《さっき》から云うんだ、実地を踏んで鍛《きた》え上げない人間は、木偶《でく》の坊《ぼう》と同《おん》なじ事だって」
「そうだそうだ。世の中で擦《す》れっ枯《か》らしと酔払いに敵《かな》うものは一人もないんだ」
 何か云うはずの小林は、この時返事をする代りにまた女伴《おんなづれ》の方を一順《いちじゅん》見廻した後で、云った。
「じゃいよいよ第三だ。あの女の立たないうちに話してしまわないと気がすまない。好いかね、君、先刻の続きだぜ」
 津田は黙って横を向いた。小林はいっこう構わなかった。
「第三にはだね。すなわち換言すると、本論に入って云えばだね。僕は先刻あすこにいる女達を捕《つら》まえて、ありゃ芸者かって君に聴いて叱《しか》られたね。君は貴婦人に対する礼義を心得ない野人として僕を叱ったんだろう。よろしい僕は野人だ。野人だから芸者と貴婦人との区別が解らないんだ。それで僕は君に訊《き》いたね、いったい芸者と貴婦人とはどこがどう違うんだって」
 小林はこう云いながら、三度目の視線をまた女伴の方に向けた。手帛《ハンケチ》で手を拭いていた人は、それを合図のように立ち上った。残る一人《いちにん》も給仕を呼んで勘定を払った。
「とうとう立っちまった。もう少し待ってると面白いところへ来るんだがな、惜しい事に」
 小林は出て行く女伴の後影《うしろかげ》を見送った。
「おやおやもう一人も立つのか。じゃ仕方がない、相手はやっぱり君だけだ」
 彼は再び津田の方へ向き直った。
「問題はそこだよ、君。僕が仏蘭西《フランス》料理と英吉利《イギリス》料理を食い分ける事ができずに、糞《くそ》と味噌《みそ》をいっしょにして自慢すると、君は相手にしない。たかが口腹《こうふく》の問題だという顔をして高を括《くく》っている。しかし内容は一つものだぜ、君。この味覚が発達しないのも、芸者と貴婦人を混同するのも」
 津田はそれがどうしたと云わぬばかりの眼を翻《ひる》がえして小林を見た。
「だから結論も一つ所へ帰着しなければならないというのさ。僕は味覚の上において、君に軽蔑《けいべつ》されながら、君より幸福だと主張するごとく、婦人を識別する上においても、君に軽蔑されながら、君より自由な境遇に立っていると断言して憚《はば》からないのだ。つまり、あれは芸者だ、
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