も同じ言葉を繰り返して夫人の説明を促《うな》がした。
「じゃ云いましょう」と最後に応じた時の夫人の様子はむしろ得意であった。「その代り訊《き》きますよ」と断った彼女は、はたして劈頭《へきとう》に津田の毒気《どっき》を抜いた。
「あなたはなぜ清子さんと結婚なさらなかったんです」
 問は不意に来た。津田はにわかに息塞《いきづま》った。黙っている彼を見た上で夫人は言葉を改めた。
「じゃ質問を易《か》えましょう。――清子さんはなぜあなたと結婚なさらなかったんです」
 今度は津田が響の声に応ずるごとくに答えた。
「なぜだかちっとも解らないんです。ただ不思議なんです。いくら考えても何にも出て来ないんです」
「突然|関《せき》さんへ行っちまったのね」
「ええ、突然。本当を云うと、突然なんてものは疾《とっく》の昔《むかし》に通り越していましたね。あっと云って後《うしろ》を向いたら、もう結婚していたんです」
「誰があっと云ったの」
 この質問ほど津田にとって無意味なものはなかった。誰があっと云おうと余計なお世話としか彼には見えなかった。然《しか》るに夫人はそこへとまって動かなかった。
「あなたがあっと云ったんですか。清子さんがあっと云ったんですか。あるいは両方であっと云ったんですか」
「さあ」
 津田はやむなく考えさせられた。夫人は彼より先へ出た。
「清子さんの方は平気だったんじゃありませんか」
「さあ」
「さあじゃ仕方がないわ、あなた。あなたにはどう見えたのよ、その時の清子さんが。平気には見えなかったの」
「どうも平気のようでした」
 夫人は軽蔑《けいべつ》の眼を彼の上に向けた。
「ずいぶん気楽ね、あなたも。清子さんの方が平気だったから、あなたがあっと云わせられたんじゃありませんか」
「あるいはそうかも知れません」
「そんならその時のあっ[#「あっ」に傍点]の始末はどうつける気なの」
「別につけようがないんです」
「つけようがないけれども、実はつけたいんでしょう」
「ええ。だからいろいろ考えたんです」
「考えて解ったの」
「解らないんです。考えれば考えるほど解らなくなるだけなんです」
「それだから考えるのはもうやめちまったの」
「いいえやっぱりやめられないんです」
「じゃ今でもまだ考えてるのね」
「そうです」
「それ御覧なさい。それがあなたの未練じゃありませんか」
 夫人はとうとう
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