がけに郵便函《ゆうびんばこ》の中を見たら入っておりましたから、持って参りました」
 お延の言葉は几帳面《きちょうめん》に改たまっていた。津田と差向いの時に比べると、まるで別人《べつにん》のように礼儀正しかった。彼女はその形式的なよそよそしいところを暗《あん》に嫌《きら》っていた。けれども他人の前、ことにお秀の前では、そうした不自然な言葉|遣《づか》いを、一種の意味から余儀なくされるようにも思った。
 手紙は夫婦の間に待ち受けられた京都の父からのものであった。これも前便と同じように書留になっていないので、眼前の用を弁ずる中味に乏しいのは、お秀からまだ何にも聞かせられないお延にもほぼ見当だけはついていた。
 津田は封筒を切る前に彼女に云った。
「お延|駄目《だめ》だとさ」
「そう、何が」
「お父さんはいくら頼んでももうお金をくれないんだそうだ」
 津田の云《い》い方《かた》は珍らしく真摯《しんし》の気に充《み》ちていた。お秀に対する反抗心から、彼はいつの間にかお延に対して平《ひら》たい旦那様《だんなさま》になっていた。しかもそこに自分はまるで気がつかずにいた。衒《てら》い気《け》のないその態度がお延には嬉《うれ》しかった。彼女は慰さめるような温味《あたたかみ》のある調子で答えた。言葉遣いさえ吾知らず、平生《ふだん》の自分に戻ってしまった。
「いいわ、そんなら。こっちでどうでもするから」
 津田は黙って封を切った。中から出た父の手紙はさほど長いものではなかった。その上一目見ればすぐ要領を得られるくらいな大きな字で書いてあった。それでも女二人は滑稽本《こっけいぼん》の場合のように口を利《き》き合わなかった。ひとしく注意の視線を巻紙の上に向けているだけであった。だから津田がそれを読み了《おわ》って、元通りに封筒の中へ入れたのを、そのまま枕元へ投げ出した時には、二人にも大体の意味はもう呑《の》み込めていた。それでもお秀はわざと訊《き》いた。
「何と書いてありますか、兄さん」
 気のない顔をしていた津田は軽く「ふん」と答えた。お秀はちょっとよそを向いた。それからまた訊いた。
「あたしの云った通りでしょう」
 手紙にははたして彼女の推察する通りの事が書いてあった。しかしそれ見た事かといったような妹の態度が、津田にはいかにも気に喰わなかった。それでなくっても先刻《さっき》からの行《い
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