のお》が彼女の胸に燃え上った。一束《ひとたば》の古手紙へ油を濺《そそ》いで、それを綺麗《きれい》に庭先で焼き尽している津田の姿が、ありありと彼女の眼に映った。その時めらめらと火に化して舞い上る紙片《かみきれ》を、津田は恐ろしそうに、竹の棒で抑《おさ》えつけていた。それは初秋《はつあき》の冷たい風が肌《はだえ》を吹き出した頃の出来事であった。そうしてある日曜の朝であった。二人差向いで食事を済ましてから、五分と経《た》たないうちに起った光景であった。箸《はし》を置くと、すぐ二階から細い紐《ひも》で絡《から》げた包を抱えて下りて来た津田は、急に勝手口から庭先へ廻ったと思うと、もうその包に火を点《つ》けていた。お延が縁側《えんがわ》へ出た時には、厚い上包がすでに焦《こ》げて、中にある手紙が少しばかり見えていた。お延は津田に何でそれを焼き捨てるのかと訊《き》いた。津田は嵩《かさ》ばって始末に困るからだと答えた。なぜ反故《ほご》にして、自分達の髪を結《ゆ》う時などに使わせないのかと尋ねたら、津田は何とも云わなかった。ただ底から現われて来る手紙をむやみに竹の棒で突ッついた。突ッつくたびに、火になり切れない濃い煙が渦《うず》を巻いて棒の先に起った。渦は青竹の根を隠すと共に、抑えつけられている手紙をも隠した。津田は煙に咽《むせ》ぶ顔をお延から背《そむ》けた。……
お時が午飯《ひるめし》の催促に上《あが》って来るまで、お延はこんな事を考えつづけて作りつけの人形のようにじっと坐り込んでいた。
九十
時間はいつか十二時を過ぎていた。お延はまたお時の給仕で独《ひと》り膳《ぜん》に向った。それは津田の会社へ出た留守に、二人が毎日繰り返す日課にほかならなかった。けれども今日のお延はいつものお延ではなかった。彼女の様子は剛張《こわば》っていた。そのくせ心は纏《まと》まりなく動いていた。先刻《さっき》出かけようとして着換えた着物まで、平生《ふだん》と違ったよそゆきの気持を余分に添える媒介《なかだち》となった。
もし今の自分に触れる問題が、お時の口から洩《も》れなかったなら、お延はついに一言《ひとこと》も云わずに、食事を済ましてしまったかも知れなかった。その食事さえ、実を云うと、まるで気が進まなかったのを、お時に疑ぐられるのが厭《いや》さに、ほんの形式的に片づけようとして、膳
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