ったまま、目下自分と津田との間柄《あいだがら》は、はたしてどんなところにどういう風に関係しているかを考えなければならなかった。彼女はありのままその物を父母《ふぼ》に報知する必要に逼《せま》られてはいなかった。けれどもある男に嫁《とつ》いだ一個の妻として、それを見極《みきわ》めておく要求を痛切に感じた。彼女はじっと考え込んだ。筆はそこでとまったぎり動かなくなった。その動かなくなった筆の事さえ忘れて、彼女は考えなければならなかった。しかも知ろうとすればするほど、確《しか》としたところは手に掴《つか》めなかった。
 手紙を書くまでの彼女は、ざわざわした散漫な不安に悩まされていた。手紙を書き始めた今の彼女は、ようやく一つ所に落ちついた。そうしてまた一つ所に落ちついた不安に悩まされ始めた。先刻《さっき》電車の中で、ちらちら眼先につき出したいろいろの影像《イメジ》は、みんなこの一点に向って集注するのだという事を、前後両様の比較から発見した彼女は、やっと自分を苦しめる不安の大根《おおね》に辿《たど》りついた。けれどもその大根の正体はどうしても分らなかった。勢い彼女は問題を未来に繰り越さなければならなかった。
「今日《こんにち》解決ができなければ、明日《みょうにち》解決するよりほかに仕方がない。明日解決ができなければ明後日《みょうごにち》解決するよりほかに仕方がない。明後日解決ができなければ……」
 これが彼女の論法《ロジック》であった。また希望であった。最後の決心であった。そうしてその決心を彼女はすでに継子の前で公言していたのである。
「誰でも構わない、自分のこうと思い込んだ人を飽《あ》くまで愛する事によって、その人に飽くまで自分を愛させなければやまない」
 彼女はここまで行く事を改めて心に誓った。ここまで行って落ちつく事を自分の意志に命令した。
 彼女の気分は少し軽《かろ》くなった。彼女は再び筆を動かした。なるべく父母《ふぼ》の喜こびそうな津田と自分の現況を憚《はばか》りなく書き連ねた。幸福そうに暮している二人の趣《おもむき》が、それからそれへと描出《びょうしゅつ》された。感激に充《み》ちた筆の穂先がさらさらと心持よく紙の上を走るのが彼女には面白かった。長い手紙がただ一息に出来上った。その一息がどのくらいの時間に相当しているかという事を、彼女はまるで知らなかった。
 しまいに筆
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