ん》の誤解を恐れた。多年の多忙と勉強のために損なわれた健康を回復するために、当分閑地についた昨今の彼には、時間の余裕も充分あった。その時間の空虚なところを、自分の趣味に適《かな》う模細工《モザイック》で毎日|埋《う》めて行く彼は、今まで自分と全く縁故のないものとして、平気で通り過ぎた人や物にだんだん接近して見ようという意志ももっていた。
これらの原因が困絡《こんがら》がって、叔父は時々藤井の宅《うち》へ自分の方から出かけて行く事があった。排外的に見える藤井は、律義《りちぎ》に叔父の訪問を返そうともしなかったが、そうかと云って彼を厭《いや》がる様子も見せなかった。彼らはむしろ快よく談じた。底《そこ》まで打ち解けた話はできないにしたところで、ただ相互の世界を交換するだけでも、多少の興味にはなった。その世界はまた妙に食い違っていた。一方から見るといかにも迂濶《うかつ》なものが、他方から眺めるといかにも高尚であったり、片側で卑俗と解釈しなければならないものを、向うでは是非とも実際的に考えたがったりするところに、思わざる発見がひょいひょい出て来た。
「つまり批評家って云うんだろうね、ああ云う人の事を。しかしあれじゃ仕事はできない」
お延は批評家という意味をよく理解しなかった。実際の役に立たないから、口先で偉そうな事を云って他《ひと》をごまかすんだろうと思った。「仕事ができなくって、ただ理窟《りくつ》を弄《もてあそ》んでいる人、そういう人に世間はどんな用があるだろう。そういう人が物質上相当の報酬を得ないで困るのは当然ではないか」。これ以上進む事のできなかった彼女は微笑しながら訊《き》いた。
「近頃藤井さんへいらしって」
「うんこないだもちょっと散歩の帰りに寄ったよ。草臥《くたび》れた時、休むにはちょうど都合の好い所にある宅だからね、あすこは」
「また何か面白いお話しでもあって」
「相変らず妙な事を考えてるね、あの男は。こないだは、男が女を引張り、女がまた男を引張るって話をさかんにやって来た」
「あら厭《いや》だ」
「馬鹿らしい、好い年をして」
お延と叔母はこもごも呆《あき》れたような言葉を出す間に、継子だけはよそを向いた。
「いや妙な事があるんだよ。大将なかなか調べているから感心だ。大将のいうところによると、こうなんだ。どこの宅《うち》でも、男の子は女親を慕い、女の子はま
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