ずきん》もまるで見えなくなってしまった。
自分は爺さんが向岸《むこうぎし》へ上がった時に、蛇を見せるだろうと思って、蘆《あし》の鳴る所に立って、たった一人いつまでも待っていた。けれども爺さんは、とうとう上がって来なかった。
第五夜
こんな夢を見た。
何でもよほど古い事で、神代《かみよ》に近い昔と思われるが、自分が軍《いくさ》をして運悪く敗北《まけ》たために、生擒《いけどり》になって、敵の大将の前に引き据《す》えられた。
その頃の人はみんな背が高かった。そうして、みんな長い髯を生《は》やしていた。革の帯を締《し》めて、それへ棒のような剣《つるぎ》を釣るしていた。弓は藤蔓《ふじづる》の太いのをそのまま用いたように見えた。漆《うるし》も塗ってなければ磨《みが》きもかけてない。極《きわ》めて素樸《そぼく》なものであった。
敵の大将は、弓の真中を右の手で握って、その弓を草の上へ突いて、酒甕《さかがめ》を伏せたようなものの上に腰をかけていた。その顔を見ると、鼻の上で、左右の眉《まゆ》が太く接続《つなが》っている。その頃|髪剃《かみそり》と云うものは無論なかった。
自分は虜
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