んだのを目撃した。
かようにして金はたしかに三重吉の手に落ちた。しかし鳥と籠《かご》とは容易にやって来ない。
そのうち秋が小春《こはる》になった。三重吉はたびたび来る。よく女の話などをして帰って行く。文鳥と籠の講釈は全く出ない。硝子戸《ガラスど》を透《すか》して五尺の縁側《えんがわ》には日が好く当る。どうせ文鳥を飼うなら、こんな暖かい季節に、この縁側へ鳥籠を据《す》えてやったら、文鳥も定めし鳴き善《よ》かろうと思うくらいであった。
三重吉の小説によると、文鳥は千代《ちよ》千代と鳴くそうである。その鳴き声がだいぶん気に入ったと見えて、三重吉は千代千代を何度となく使っている。あるいは千代と云う女に惚《ほ》れていた事があるのかも知れない。しかし当人はいっこうそんな事を云わない。自分も聞いてみない。ただ縁側に日が善く当る。そうして文鳥が鳴かない。
そのうち霜《しも》が降り出した。自分は毎日|伽藍《がらん》のような書斎に、寒い顔を片づけてみたり、取乱してみたり、頬杖を突いたりやめたりして暮していた。戸は二重《にじゅう》に締め切った。火鉢《ひばち》に炭ばかり継《つ》いでいる。文鳥はついに忘れた。
ところへ三重吉が門口《かどぐち》から威勢よく這入《はい》って来た。時は宵《よい》の口《くち》であった。寒いから火鉢の上へ胸から上を翳《かざ》して、浮かぬ顔をわざとほてらしていたのが、急に陽気になった。三重吉は豊隆《ほうりゅう》を従えている。豊隆はいい迷惑である。二人が籠を一つずつ持っている。その上に三重吉が大きな箱を兄《あに》き分《ぶん》に抱《かか》えている。五円札が文鳥と籠と箱になったのはこの初冬《はつふゆ》の晩であった。
三重吉は大得意である。まあ御覧なさいと云う。豊隆その洋灯《ランプ》をもっとこっちへ出せなどと云う。そのくせ寒いので鼻の頭が少し紫色《むらさきいろ》になっている。
なるほど立派な籠ができた。台が漆《うるし》で塗ってある。竹は細く削《けず》った上に、色が染《つ》けてある。それで三円だと云う。安いなあ豊隆と云っている。豊隆はうん安いと云っている。自分は安いか高いか判然と判《わか》らないが、まあ安いなあと云っている。好いのになると二十円もするそうですと云う。二十円はこれで二返目《にへんめ》である。二十円に比べて安いのは無論である。
この漆はね、先生、日向《
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