ら、時に日の当る縁側《えんがわ》に机を持ち出して、頭から日光を浴びながら筆を取る事もある。余り暑くなると、麦藁帽子《むぎわらぼうし》を被《かぶ》って書くような事もある。こうして書くと、よく出来るようである。凡《すべ》て明るい処がよい。
原稿紙は十九字詰十行の洋罫紙《ようけいし》で、輪廓《りんかく》は橋口五葉君に画いて貰ったのを春陽堂に頼んで刷らせて居る。十九字詰にしたのは、此原稿紙を拵《こし》らえた時に、新聞が十九字詰であったからである。用筆は最初Gの金ペンを用いた。五六年も用いたろう。其後万年筆にした。今用いて居る万年筆は二代目のでオノトである。別にこれがいいと思って使って居るのでも何でも無い。丸善の内田魯庵君に貰ったから、使って居るまでである。筆で原稿を書いた事は、未《ま》だ一度もない。
底本:「筑摩全集類聚版 夏目漱石全集 10」筑摩書房
1972(昭和47)年1月10日第1刷発行
初出:「大阪朝日新聞」
1914(大正3)年3月22日
※底本は、「談話」の項におさめた本作品の表題に、かぎ括弧を付けて示している。
入力:Nana ohbe
校正:米田進
2002年4月27日作成
2003年5月25日修正
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