れを事実として受けとるのであります。
意識と云い、連続と云い、連続的傾向と云うとそのうちに意識の分化と云う事と統一と云う事は自然と含まっております。すでに連続とある以上は甲と乙と連続したと云う事実を意識せねばならぬ、すなわち甲と乙と差別がつくほどに両意識が明暸でなければなりません。差別がつくと云うのは、同時に同じ意識もしくは類似の意識を統一し得ると云う意味と同じ事になります。例《たと》えてみれば視覚となづける意識は、分化の結果、触覚や味覚と差別がつくと、同時にあらゆる視覚的意識を統一する事ができて始めてできる言語であります。意識にこれだけの分化作用ができて、その分化した意識と、眼球《めだま》と云う器械を結びつけて、この種の意識は眼球が司《つかさ》どるのだと思いつく。しばらく視覚の意識と眼球の作用を混同して云うと、昔し分化作用の行われぬうちは視力は必ずしも眼球に集中しておらなかったろう。私も遠い昔では、からだ全体で物を見ていたかも知れぬ、あるいは背中で物を舐《な》めていたかも知れぬ。眼《め》耳《みみ》鼻《はな》舌《した》と分業が行われ出したのは、つい近頃の事であると思います。こう分業が行われだすと融通が利《き》かなくなります。ちょっと舌癌《ぜつがん》にかかったからと云うて踵《かかと》で飯を食う訳には行かず、不幸にして痳疾《りんしつ》を患《うれ》いたからと申して臍《へそ》で用を弁ずる事ができなくなりました。はなはだ不都合《ふつごう》であります。しかし意識の連続[#「連続」に白丸傍点]と云う以上は、――連続[#「連続」に白丸傍点]の意義が明暸《めいりょう》になる以上は、――連続を形ちづくる意識の内容が明暸でなければならぬはずであります。明暸でない意識は連続しているか、連続していないか判然しない。つまり吾人の根本的傾向に反する。否《いな》意識そのものの根本的傾向に反するのであります。意識の分化と統一とはこの根本的傾向から自然と発展して参ります。向後どこまで分化と統一が行われるかほとんど想像がつかない。しかしてこれに応ずる官能もどのくらい複雑になるか分りません。今日では目に見えぬもの、手に触れる事のできぬもの、あるいは五感以上に超然たるものがしだいに意識の舞台に上る事であろうと思いますから、まず気を長くして待っていたらよかろうと思います。
もう一遍|繰返《くりかえ》して「意識の連続」と申します。この句を割って見ると意識と云う字と連続と云う字になります。こうして意識の内容のいかんと、この連続の順序のいかんと二つに分れて問題は提起される訳であります。これを合すれば、いかなる内容の意識をいかなる順序に連続させるかの問題に帰着します。吾人がこの問題に逢着《ほうちゃく》したとき――吾人は必ずこの問題に逢着するに相違ない。意識及その連続を事実と認める裏にはすでにこの問題が含まれております。そうしてこの問題の裏面には選択《せんたく》と云う事が含まれております。ある程度の自由がない以上は、また幾分か選択の余裕がないならばこの問題の出ようはずがない。この問題が出るのはこの問題が一通り以上に解決され得るからである。この解決の標準を理想[#「理想」に白丸傍点]というのであります。これを纏《まと》めて一口に云うと吾人は生きたいと云う傾向をもっている。(意識には連続的傾向があると云う方が明確かも知れぬが)この傾向からして選択が出る。この選択から理想が出る。すると今まではただ生きればいいと云う傾向が発展して、ある特別の意義を有する命が欲しくなる。すなわちいかなる順序に意識を連続させようか、またいかなる意識の内容を選ぼうか、理想はこの二つになって漸々《ぜんぜん》と発展する。後に御話をする文学者の理想もここから出て参るのであります。
次に連続と云う字義をもう一遍|吟味《ぎんみ》してみますと、前にも申す通り、ははあ連続している哩《わい》と相互の区別ができるくらいに、連続しつつある意識は明暸《めいりょう》でなければならぬはずであります。そうして、かように区別し得る程度において明暸なる意識が、新陳代謝すると見ると、甲が去[#「去」に白丸傍点]って乙が来[#「来」に白丸傍点]ると云う順序がなければならぬはずであります。順序があるからには甲乙が共に意識せられるのではない。甲が去った後で、乙を意識するのであるから、乙を意識しているときはすでに甲は意識しておらん訳です。それにもかかわらず甲と乙とを区別する事ができるならば、明暸なる乙の意識の下には、比較的不明暸かは知らぬが、やはり甲の意識が存在していると見做《みな》さなければなりません。俗にこの不明暸な意識を称して記憶と云うのであります。だからして記憶の最高度はもっとも明暸なる上層の意識で、その最低度はもっとも不明暸なる下層の
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