文芸とヒロイツク
夏目漱石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)頭《あたま》から極《き》めてかゝつてゐる

《〔〕》:底本の編集部による、現代仮名遣いのルビ
(例)尤《〔もっと〕》も

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)矛盾|扞格《〔かんかく〕》の意

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ごろ/\して
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 自然主義といふ言葉とヒロイツクと云ふ文字は仙台平《〔せんだいひら〕》の袴と唐桟《〔とうざん〕》の前掛の様に懸け離れたものである。従つて自然主義を口にする人はヒロイツクを描かない。実際そんな形容のつく行為は二十世紀には無い筈だと頭《あたま》から極《き》めてかゝつてゐる。尤《〔もっと〕》もである。
 けれども実際世の中にない又は少ないと云ふ事実と、馬鹿げてゐる、滑稽であると云ふ事実とは違ふべき筈である。吾々の見渡した世間にさう眼につく程ごろ/\してゐない物のうちには、常人さへ唾棄《〔だき〕》して顧みなくなつた(従つて存在の権利を失つた)のも沢山あるだらうが、貴重なため容易に手に入りかねるのも随分あるべき
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