みに過ぎなかった。その代り千代子が常に畏《おそ》れる点を、幸《さいわい》にして僕はただ一つ有《も》っていた。それは僕の無口である。彼女のように万事明けっ放しに腹を見せなければ気のすまない者から云うと、いつでも、しんねりむっつりと構えている僕などの態度は、けっして気に入るはずがないのだが、そこにまた妙な見透《みす》かせない心の存在が仄《ほの》めくので、彼女は昔から僕を全然知り抜く事のできない、したがって軽蔑しながらもどこかに恐ろしいところを有った男として、ある意味の尊敬を払っていたのである。これは公《おおや》けにこそ明言しないが、向うでも腹の底で正式に認めるし、僕も冥々《めいめい》のうちに彼女から僕の権利として要求していた事実である。
ところが偶然高木の名前を口にした時、僕はたちまちこの尊敬を永久千代子に奪い返されたような心持がした。と云うのは、「高木さんも」という僕の問を聞いた千代子の表情が急に変化したのである。僕はそれを強《あなが》ちに勝利の表情とは認めたくない。けれども彼女の眼のうちに、今まで僕がいまだかつて彼女に見出した試しのない、一種の侮蔑《ぶべつ》が輝やいたのは疑いもない事
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