書き出して自分と裂き棄《す》てたようなこの小説の続きをいろいろに想像した。そこには海があり、月があり、磯《いそ》があった。若い男の影と若い女の影があった。始めは男が激《げき》して女が泣いた。後《あと》では女が激して男が宥《なだ》めた。ついには二人手を引き合って音のしない砂の上を歩いた。あるいは額《がく》があり、畳があり、涼しい風が吹いた。二人の若い男がそこで意味のない口論をした。それがだんだん熱い血を頬に呼び寄せて、ついには二人共自分の人格にかかわるような言葉使いをしなければすまなくなった。果《はて》は立ち上って拳《こぶし》を揮《ふる》い合った。あるいは……。芝居に似た光景は幾幕となく眼の前に描《えが》かれた。僕はそのいずれをも甞《な》め試ろみる機会を失ってかえって自分のために喜んだ。人は僕を老人みたようだと云って嘲《あざ》けるだろう。もし詩に訴えてのみ世の中を渡らないのが老人なら、僕は嘲けられても満足である。けれどももし詩に涸《か》れて乾《から》びたのが老人なら、僕はこの品評に甘んじたくない。僕は始終詩を求めてもがいているのである。

        二十六

 僕は東京へ帰ってから
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