うちで、この松本という男は世に著《あら》われない学者の一人なのではなかろうかと疑ぐったくらい、妙な理窟《りくつ》をちらちらと閃《ひら》めかされた。そればかりでなく、松本は田口を捕《つら》まえて、役には立つが頭のなっていない男だと罵《のの》しった。
「第一《だいち》ああ忙がしくしていちゃ、頭の中に組織立った考《かんがえ》のできる閑《ひま》がないから駄目です。あいつの脳と来たら、年《ねん》が年中《ねんじゅう》摺鉢《すりばち》の中で、擂木《すりこぎ》に攪《か》き廻されてる味噌《みそ》見たようなもんでね。あんまり活動し過ぎて、何の形にもならない」
敬太郎にはなぜこの主人が田口に対してこうまで悪体《あくたい》を吐《つ》くのかさっぱり訳が分らなかった。けれども彼の不思議に感じたのは、これほどの激語を放つ主人の態度なり口調なりに、毫《ごう》も毒々しいところだの、小悪《こにく》らしい点だのの見えない事であった。彼の罵《のの》しる言葉は、人を罵しった経験を知らないような落ちつきを具《そな》えた彼の声を通して、敬太郎の耳に響くので、敬太郎も強く反抗する気になれなかった。ただ一種変った人だという感じが新た
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