はこの疑惑と共に黒い空を仰ぎながら、そのうちに二人の向き合った姿をありありと認めた。
三十五
彼はあまり注意深く立ち廻って、かえって洋食店の門を早く出過ぎたのを悔《くや》んだ。けれども二人が彼に気兼《きがね》をする以上は、たとい同じ席にいつまでも根が生えたように腰を据《す》えていたところで、やっぱり普通の世間話よりほかに聞く訳には行かないのだから、よし今まで坐《すわ》ったまま動かないものと仮定しても、その結果は早く席を立ったと、ほぼ同じ事になるのだと思うと、彼は寒いのを我慢しても、同じ所に見張っているより仕方なかった。すると帽子の廂《ひさし》へ雨が二雫《ふたしずく》ほど落ちたような気がするので、彼はまた仰向《あおむ》いて黒い空を眺めた。闇《やみ》よりほかに何も眼を遮《さえ》ぎらない頭の上は、彼の立っている電車通と違って非常に静であった。彼は頬《ほお》の上に一滴《いってき》の雨を待ち受けるつもりで、久しく顔を上げたなり、恰好《かっこう》さえ分らない大きな暗いものを見つめている間《あいだ》に、今にも降り出すだろうという掛念《けねん》をどこかへ失なって、こんな落ちついた
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