しない電車をいつまでも待っているのではなかろうかと思った。それなら親切に教えてやるべきだという勇気が急に起ったので、彼は逡巡《しゅんじゅん》する気色《けしき》もなく、真正面に女の方を向いた。すると女はふいと歩き出して、二三間先の宝石商の窓際まで行ったなり、あたかも敬太郎の存在を認めぬもののごとくに、そこで額を窓硝子《まどガラス》に着けるように、中に並べた指環だの、帯留だの枝珊瑚《えださんご》の置物だのを眺《なが》め始めた。敬太郎は見ず知らずの他人に入らざる好意立《こういだて》をして、かえって自分と自分の品位を落したのを馬鹿らしく感じた。
女の容貌《ようぼう》は始めから大したものではなかった。真向《まむき》に見るとそれほどでもないが、横から眺めた鼻つきは誰の目にも少し低過ぎた。その代り色が白くて、晴々《はればれ》しい心持のする眸《ひとみ》を有《も》っていた。宝石商の電灯は今|硝子越《ガラスごし》に彼女《かのおんな》の鼻と、豊《ふっ》くらした頬の一部分と額とを照らして、斜《はす》かけに立っている敬太郎の眼に、光と陰とから成る一種妙な輪廓《りんかく》を与えた。彼はその輪廓と、長いコートに包
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