の稀薄《きはく》から起ったとすれば、我々は自分の家業商売に逐《お》われて日もまた足らぬ時間しかもたない身分であるにもかかわらず、その乏しい余裕を割《さ》いて一般の人間を広く了解《りょうかい》しまたこれに同情し得る程度に互の温味《あたたかみ》を醸《かも》す法を講じなければならない。それにはこういう公会堂のようなものを作って時々講演者などを聘《へい》して知識上の啓発《けいはつ》をはかるのも便法でありますし、またそう知的の方面ばかりでは窮屈すぎるから、いわゆる社交機関を利用して、互の歓情を※[#「磬」の「石」に代えて「缶」、第4水準2−84−70]《つく》すのも良法でありましょう。時としては方便の道具として酒や女を用いても好いくらいのものでしょう。実業家などがむずかしい相談をするのにかえって見当違《けんとうちがい》の待合などで落合って要領を得ているのも、全く酒色という人間の窮屈を融《と》かし合う機械の具《そなわ》った場所で、その影響の下に、角《かど》の取れた同情のある人間らしい心持で相互に所置ができるからだろうと思います。現に事が纏《まとま》るという実用上の言葉が人間として彼我《ひが》打ち解
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