りか、ちょっとその意を得るに苦しんだくらいであります。ところが来て見ると非常に大きな建物があって、あそこで講演をやるのだと人から教えられて始めてもっともだと思いました。なるほどあれほどの建物を造ればその中で講演をする人をどこからか呼ばなければいわゆる宝の持腐れになるばかりでありましょう。したがって西日がカンカン照って暑くはあるが、せっかくの建物に対しても、あなた方は来て見る必要があり、また我々は講演をする義務があるとでも言おうか、まアあるものとしてこの壇上に立った訳である。
 そこで「道楽と職業」という題。道楽と云いますと、悪い意味に取るとお酒を飲んだり、または何か花柳社会へ入ったりする、俗に道楽息子と云いますね、ああいう息子のする仕業《しわざ》、それを形容して道楽という。けれども私のここで云う道楽は、そんな狭い意味で使うのではない、もう少し広く応用の利《き》く道楽である。善《よ》い意味、善い意味の道楽という字が使えるか使えないか、それは知りませぬが、だんだん話して行く中《うち》に分るだろうと思う。もし使えなかったら悪い意味にすればそれでよいのであります。
 道楽と職業、一方に道楽とい
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