い声で唄《うた》をうたいました。それが奇麗《きれい》に波の上へ響くので、船の中の人はことごとく物凄《ものすご》い心持になりましたが、やがて夜が明けると共にかの美人はふっと消えました。やれやれと安心しているとその晩またあらわれました。そうして手を伸して、首を上げて、波の上を滑《すべ》って、船のあとをつけて、いかにも淋しい声で、夜もすがら唄をうたいます。それから夜が明けると、またふっと消えます。そうして夜になるとまた出ます。そのうち船がとうとうネープルスへ着きましたので、かの音楽家はそこで上陸致して、自分の郷里へ帰ると、手紙が来ております。差出し人はと見ると、ポートサイドにいる友人で、かねて自分と彼の女との間を知っているものでありました。すぐに開封して見ると、あの女は君が船へ乗って出帆するや否や、海の中へざぶざぶ這入《はい》って行って、とうとう行き方知れずになったとありました。――話はこれでおしまいです。私はこの話を読むと何となく妙な気分になりました。その気分が妙になるところにこの話の価値はあるのですから、どの畠《はたけ》のものであるかは分っております。しかし真には乏しい。実事物語としてか
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