性《しょう》に合っている訳なんだからかどうか分りませんが、何となく廃《や》めたくなかったのであります。しかし可愛い男の云う事だから、厭《いや》な心を抑えて亭主の意に従います。それから二人で非常な贅沢《ぜいたく》をやります。嬉《うれ》しい中でいっしょになって、金を使いたいだけ使うんだから、幸福でなければならないはずですが、そこが妙なもので、細君が女優をやめてからというものは何となく気色が勝《すぐ》れなくなります。いくら夫が機嫌《きげん》をとっても浮き立ちません。と云って固々《もともと》憎《にく》い男ではないんだから粗略にする訳はない。しんそこ夫の事はいとしく思っているのであります。ただ心が陽気になれないだけなのですが、夫の方では最愛の細君の一顰一笑《いっぴんいっしょう》も千金より重い訳ですから、捨ておかれんと云うので慰藉《いしゃ》かたがた以太利《イタリー》へ旅行に出かけます。しかるに男は出先で病気に懸《かか》ります。細君は看病に怠りはございませんが、定業《じょうごう》はしかたのないものでとうとう死んでしまいます。その死ぬ少し前に例の通り細君が看病のため枕辺へ寄り添いますと、男はいつになく
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