らしくって生命があるかも知れません。
もっとも日本だって孤立して生存している国柄《くにがら》ではない。やっぱり西洋と御付合をして大分ばた[#「ばた」に傍点]臭《くさ》くなりつつある際だから、西洋の現代文学を研究して、その歴史的の由来を視て、ははあ西洋人は、今こんな立場で書いてるなくらいは心得ておかなくっちゃなりません。たとえ夢中に真似《まね》をするのが悪いと云っても、先方の立場その他を参考にするのはもちろん必要であります。文学は前《ぜん》申したような特色のものではありますが、その特色の中《うち》には一本調子に発達する科学の影響がたくさん流れ込んで来ますから、定数として動かすべからざるこの要素が、いかに科学の進歩に連れて文学の各局部を冒《おか》しているかを見るのは、科学思想の発達しない日本人が、いたずらに自己の傾向ばかりふり廻していては、分らないので、そう頑張《がんば》っていてはついには正宗の名刀で速射砲と立合をするような奇観を呈出するかも知れません。
して見ると歴史的研究は前のような弊もあるが、けっして閑却すべからざるものでありますから、私の希望を云うと、歴史を研究するならばその研
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