sけいだい》を拝見にと答えて、同時に足を停《と》めたら、坊主は直《ただ》ちに、何もありませんぞと言い捨てて、すたすた下りて行った。あまり洒落《しゃらく》だから、余は少しく先《せん》を越された気味で、段上に立って、坊主を見送ると、坊主は、かの鉢の開いた頭を、振り立て振り立て、ついに姿を杉の木の間に隠した。その間《あいだ》かつて一度も振り返った事はない。なるほど禅僧は面白い。きびきびしているなと、のっそり山門を這入《はい》って、見ると、広い庫裏《くり》も本堂も、がらんとして、人影はまるでない。余はその時に心からうれしく感じた。世の中にこんな洒落《しゃらく》な人があって、こんな洒落に、人を取り扱ってくれたかと思うと、何となく気分が晴々《せいせい》した。禅《ぜん》を心得ていたからと云う訳ではない。禅のぜの字もいまだに知らぬ。ただあの鉢の開いた坊主の所作《しょさ》が気に入ったのである。
 世の中はしつこい、毒々しい、こせこせした、その上ずうずうしい、いやな奴《やつ》で埋《うずま》っている。元来何しに世の中へ面《つら》を曝《さら》しているんだか、解《げ》しかねる奴さえいる。しかもそんな面に限って大
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