コりた。夕日は樹梢《じゅしょう》を掠《かす》めて、幽《かす》かに松の幹を染むる。熊笹はいよいよ青い。
また驚かされた。
十一
山里《やまざと》の朧《おぼろ》に乗じてそぞろ歩く。観海寺の石段を登りながら仰数《あおぎかぞう》春星《しゅんせい》一二三と云う句を得た。余は別に和尚《おしょう》に逢う用事もない。逢うて雑話をする気もない。偶然と宿を出《い》でて足の向くところに任せてぶらぶらするうち、ついこの石磴《せきとう》の下に出た。しばらく不許葷酒入山門《くんしゅさんもんにいるをゆるさず》と云う石を撫《な》でて立っていたが、急にうれしくなって、登り出したのである。
トリストラム・シャンデーと云う書物のなかに、この書物ほど神の御覚召《おぼしめし》に叶《かの》うた書き方はないとある。最初の一句はともかくも自力《じりき》で綴《つづ》る。あとはひたすらに神を念じて、筆の動くに任せる。何をかくか自分には無論見当がつかぬ。かく者は自己であるが、かく事は神の事である。したがって責任は著者にはないそうだ。余が散歩もまたこの流儀を汲《く》んだ、無責任の散歩である。ただ神を頼まぬだけが一層
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