lが紫檀《したん》の書架から、恭《うやうや》しく取り下《おろ》した紋緞子《もんどんす》の古い袋は、何だか重そうなものである。
「和尚さん、あなたには、御目に懸《か》けた事があったかな」
「なんじゃ、一体」
「硯《すずり》よ」
「へえ、どんな硯かい」
「山陽《さんよう》の愛蔵したと云う……」
「いいえ、そりゃまだ見ん」
「春水《しゅんすい》の替え蓋《ぶた》がついて……」
「そりゃ、まだのようだ。どれどれ」
老人は大事そうに緞子の袋の口を解くと、小豆色《あずきいろ》の四角な石が、ちらりと角《かど》を見せる。
「いい色合《いろあい》じゃのう。端渓《たんけい》かい」
「端渓で※[#「句+鳥」、第3水準1−94−56]※[#「谷+鳥」、第3水準1−94−60]眼《くよくがん》が九《ここの》つある」
「九つ?」と和尚|大《おおい》に感じた様子である。
「これが春水の替え蓋」と老人は綸子《りんず》で張った薄い蓋を見せる。上に春水の字で七言絶句《しちごんぜっく》が書いてある。
「なるほど。春水はようかく。ようかくが、書《しょ》は杏坪《きょうへい》の方が上手《じょうず》じゃて」
「やはり杏坪の方がいい
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