の拙に惚れ込んだ瞬間の場合さへ有《も》たなかつた。彼の歿後殆ど十年にならうとする今日《こんにち》、彼のわざ/\余の爲に描《ゑが》いた一輪の東菊《あづまぎく》の中《うち》に、確に此一拙字を認める事の出來たのは、其結果が余をして失笑せしむると、感服せしむるとに論なく、余に取つては多大の興味がある。たゞ畫が如何にも淋《さび》しい。出來得るならば、子規の此拙な所をもう少し雄大に發揮させて、淋《さび》しさの償《つぐなひ》としたかつた。
[#地から2字上げ]―明治四四、七、四―



底本:「漱石全集 第十七巻」岩波書店
   1957(昭和32)年1月12日第1刷発行
   1979(昭和54)年8月8日第4刷
入力:山田豊
校正:土屋隆
2005年9月17日作成
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