「どうする気だって、――むろんもらいたいんですがね」
 「真剣のところを白状しなくっちゃいけないよ。いいかげんなことを言って引っ張るくらいなら、いっそきっぱり今のうちに断わるほうが得策だから」
 「いまさら断わるなんて、僕はごめんだなあ。実際|叔父《おじ》さん、僕はあの人が好きなんだから」
 重吉の様子にどこといって嘘《うそ》らしいところは見えなかった。
 「じゃ、もっと早くどしどしかたづけるが好いじゃないか、いつまでたってもぐずぐずで、はたから見ると、いかにも煮え切らないよ」
 重吉は小さな声でそうかなと言って、しばらく休んでいたが、やがて元の調子に戻って、こう聞いた。
 「だってもらってこんないなかへ連れてくるんですか」
 自分はいなかでもなんでもかまわないはずだと答えた。重吉は先方がそれを承知なのかと聞き返した。自分はその時ちょっと困った。実はそんな細かなことまで先方の意見を確かめたうえで、談判に来たわけではなかったのだからである。けれども行きがかり上やむをえないので、
 「そう話したら、承知するだろうじゃないか」と勢いよく言ってのけた。
 すると、重吉は問題の方向を変えて、目下の経済事情が、とうてい暖かい家庭を物質的に形づくるほどの余裕をもっていないから、しばらくのあいだひとりでしんぼうするつもりでいたのだという弁解をしたうえ、最初の約束によれば、ことしの暮れには月給が上がって東京へ帰れるはずだから、その時は先さえ承知なら、どんな小さな家でも構えて、お静さんを迎える考えだと話した。もし事が約束どおりに運ばないため、月給も上がらず、東京へも帰れなかったあかつきには、その時こそ、先方さえ異存がなければ、自分の言ったようにする気だから、なにぶんよろしく頼むということもつけ加えた。自分は一応もっともだと思った。
 「そうお前の腹がきまってるなら、それでいい。叔母《おば》さんも安心するだろう。お静さんのほうへも、よくそう話しておこう」
 「ええどうぞ――。しかし僕の腹はたいてい貴方《あなた》がたにはわかってるはずですがねえ」
 「そんなら、あんな返事をよこさないがいいよ。ただよろしく願いますだけじゃなんだかいっこうわからないじゃないか。そうして、あのはがきはなんだい、私はまだ道楽を始めませんから、だいじょうぶですって。本気だか冗談だかまるで見当がつかない」
 「
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