この最後の言葉を聞くまで、彼はもっともらしく腕組をして自分の膝頭《ひざがしら》を眺めていた。
「じゃ君といっしょに行こうじゃないか。いっしょの方が僕一人より好かろう、精《くわ》しい話ができて」
 三沢にそれだけの好意があれば、自分に取っても、それに越した都合はなかった。彼は着物を着換ると云ってすぐ座を起《た》ったが、しばらくするとまた襖《ふすま》の陰《かげ》から顔を出して、「君、母が久しぶりだから君に飯を食わせたいって今|支度《したく》をしているところなんだがね」と云った。自分は落ちついて馳走《ちそう》を受ける気分をもっていなかった。しかしそれを断ったにしたところで、飯はどこかで食わなければならなかった。自分は瞹眛《あいまい》な返事をして、早く立ちたいような気のする尻を元の席に据《す》えていた。そうして本棚《ほんだな》の上に載せてある女の首をちょいちょい眺めた。
「どうも何にもございませんのに、御引留め申しましてさぞ御迷惑でございましたろう。ほんの有合せで」
 三沢の母は召使に膳《ぜん》を運ばせながらまた座敷へ顔を出した。膳の端《はし》には古そうに見える九谷焼の猪口《ちょく》が載せてあ
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