なた」
油絵のモデルは三沢のいわゆる出戻《でもど》りの御嬢さんであった。彼の母は自分の聞かない先きに、彼女についていろいろと語った。けれども女と三沢との関係は一言《ひとこと》も口にしなかった。女の精神病に罹《かか》った事にもまるで触れなかった。自分もそれを聞く気は起らなかった。かえって話頭をこっちで切り上げるようにした。
問題は彼女を離れるとすぐ三沢の結婚談に移って行った。彼の母は嬉《うれ》しそうであった。
「あれもいろいろ御心配をかけましたが、今度ようやくきまりまして……」
この間三沢から受取った手紙に、少し一身上《いっしんじょう》の事について、君に話があるからそのうち是非行くと書いてあったのが、この話でやっと悟れた。自分は彼の母に対して、ただ人並の祝意を表しておいたが、心のうちではその嫁になる人は、はたしてこの油絵に描いてある女のように、黒い大きな滴《したた》るほどに潤《うるお》った眼をもっているだろうか、それが何より先に確めて見たかった。
三沢は思ったほど早く帰らなかった。彼の母はおおかた帰りがけに湯にでも行ったのだろうと云って、何なら見せにやろうかと聞いたが、自分はそれ
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