えなかった。彼らの存在を忘れた自分は、快よい風呂に入って、旨《うま》い夕飯《ゆうめし》を食った。
 次に訪《たず》ねてくれた時の母の調子は、前に較《くら》べると少し変っていた。彼女は大阪以後、ことに自分が下宿して以後、自分の前でわざと嫂《あによめ》の批評を回避するような風を見せた。自分も母の前では気が咎《とが》めるというのか、必要のない限り、嫂の名を憚《はばか》って、なるべく口へ出さなかった。ところがこの注意深い母がその折|卒然《そつぜん》と自分に向って、「二郎、ここだけの話だが、いったいお直《なお》の気立は好いのかね悪いのかね」と聞いた。はたして何か始まったのだと心得た自分は冷りとした。
 下宿後の自分は、兄についても嫂についても不謹慎な言葉を無責任に放つ勇気は全くなかったので、母は自分から何一つ満足な材料を得ずして去った。自分の方でも、なぜ彼女がこの気味の悪い質問を自分に突然とかけたかついに要領を得ずに母を逸した。「何かまた心配になるような事でもできたのですか」と聞いても、彼女は「なに別にこれと云って変った事はないんだがね……」と答えるだけで、後は自分の顔を打守るに過ぎなかった。

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