しない。厭に嫂《ねえ》さんの肩ばかり持って……」
「お前は嫂さんに抵抗し過ぎるよ」
「当前《あたりまえ》ですわ。大兄《おおにい》さんの妹ですもの」

        九

 自分は三沢へ端書《はがき》を書いた後《あと》で、風呂から出立《でたて》の頬に髪剃《かみそり》をあてようと思っていた。お重を相手にぐずぐずいうのが面倒になったのを好い幸いに、「お重気の毒だが風呂場から熱い湯をうがい茶碗にいっぱい持って来てくれないか」と頼んだ。お重は嗽茶碗《うがいぢゃわん》どころの騒ぎではないらしかった。それよりまだ十倍も厳粛な人生問題を考えているもののごとく澄まして膨《ふく》れていた。自分はお重に構わず、手を鳴らして下女から必要な湯を貰った。それから机の上へ旅行用の鏡を立てて、象牙《ぞうげ》の柄《え》のついた髪剃《かみそり》を並べて、熱湯で濡《ぬ》らした頬をわざと滑稽《こっけい》に膨《ふく》らませた。
 自分が物新しそうにシェーヴィング・ブラッシを振り廻して、石鹸《シャボン》の泡で顔中を真白にしていると、先刻《さっき》から傍《そば》に坐ってこの様子を見ていたお重は、ワッと云う悲劇的な声をふり上げて泣
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