を見て、急に気分の変化に心づいた。したがって向い合っている嫂の姿が昨夕《ゆうべ》の嫂とは全く異なるような心持もした。今朝《けさ》見ると彼女の眼にどこといって浪漫的《ロマンてき》な光は射していなかった。ただ寝の足りない※[#「目+匡」、第3水準1−88−81]《まぶち》が急に爽《さわや》かな光に照らされて、それに抵抗するのがいかにも慵《ものう》いと云ったような一種の倦怠《けた》るさが見えた。頬の蒼白《あおじろ》いのも常に変らなかった。
我々はできるだけ早く朝飯を済まして宿を立った。電車はまだ通じないだろうという宿のものの注意を信用して俥《くるま》を雇った。車夫は土間から表に出た我々を一目見て、すぐ夫婦ものと鑑定したらしかった。俥に乗るや否や自分の梶棒《かじぼう》を先へ上げた。自分はそれをとめるように、「後《あと》から後から」と云った。車夫は心得て「奥さんの方が先だ」と相図した。嫂の俥が自分の傍《そば》を擦《す》り抜ける時、彼女は例の片靨《かたえくぼ》を見せて「御先へ」と挨拶《あいさつ》した。自分は「さあどうぞ」と云ったようなものの、腹の中では車夫の口にした奥さんという言葉が大いに気にな
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